侵害警告
特許権侵害訴訟を提起する前に特許権者が被告とすべき者に対して特許権侵害行為の存在を通知する(侵害警告)必要はないとするのが、立法例の大勢である。ただし、実務上極めて重要な例外として、侵害警告があったことが損害賠償請求権の発生要件となる場合があるとするアメリカ合衆国連邦特許法287条(a)の例がある。また、日本国や大韓民国(ただし2006年10月1日の制度改正前のもの)の実用新案制度のように、技術的側面に関する実体審査をせずに技術的思想独占権を設定する制度の下では、侵害警告があったことがその権利に基づく侵害訴訟で勝訴するための要件とされることがある。
もっとも、侵害警告には、上記のような法律上の要件としての意義とは別に、戦略的な意義もある。すなわち、特許権侵害訴訟の審理の主導権を握り、自己に有利な判決又は和解条項を迅速に得るには、争点の正確な予測とこれに基づく十分な事前準備とが不可欠である。そのためには、侵害警告を発する特許権者も、これに対する回答書を発する侵害行為者も、具体的な根拠に基づく主張の応酬を展開し、相手方の真意(狙いは競業者の放逐なのか、金銭的利益なのか、相互実施許諾(クロスライセンス)なのか)、論拠の強弱、証拠収集の進展度合いといった、相手方の手の内を探っておくことが有益な場合が多い。
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その反面で、欧州特許条約締約国内の侵害行為者に対して侵害警告を発する場合には、侵害行為者側の魚雷(独 torpedo )戦略[1]を誘発する危険性がある。魚雷戦略は訴権の濫用にあたると解釈されてはいるが、その旨の判決を得るまでに長期間を要することもあり得るので、特許権者は警戒を要する。